テスラバルブの流体解析

今回は、テスラバルブという流体機械について流体解析によるシミュレーションを行ってみました。

テスラバルブとは

テスラバルブ(Telsa valve)とは、ニコラ=テスラによって発明された、流体を優先的に一方向に流すための装置です。一般的に、バルブとは水道の蛇口やボールバルブ、チェックバルブのように、流体が流れる流路を何らかの形で塞いで、流量を調節したり流れをせき止めたりする部品のことを言います。

テスラバルブは、このような通常のバルブとは異なり、流路を意図的に塞ぐ機構を持たず、流体が流れる方向によって選択的に流れを制御するものです。

1920年にアメリカで特許が取得されていますが、マイクロ流体の分野などでも使われ、現在でも研究されているようです[1]。

テスラバルブの構造

テスラバルブは下図のように、環状の流路が鎖のように連なった構造をしています。

テスラバルブの構造

この流路に左から流体を流した場合と、右から流体を流した場合とを比較すると、どちらか一方は流体が流れやすく、逆向きの場合は流れにくくなります。ある意味、可動部品を持たないバルブ(逆止弁)のような働きをします。

テスラバルブの流体シミュレーション

このテスラバルブをオンライン流体解析ツールCATCFDzeroを使ってシミュレーションを行ってみます。

左から流した場合

まず、この流路に左から水を流した場合(流路経10mm、流速0.1m/sで流入)の結果です。下図は流線と流速のコンター図を示しています。

流速[m/s]と流線

鎖状の流路で分岐がいくつかあるため、流線を見てみると分岐したり合流したりを繰り返している様子がわかります。

図を拡大して、流れの方向を示してみます。

流速と流線

流速[m/s]と流線

流れは分岐していますが、環状になった流路の方向がやや流量が多いようです。直線状の流路の分岐部には渦ができており、流量が少なくなっています。二つの分岐した流れは再び合流し、また次の分岐部で同様の流れが起こっています。このように、流体は分岐したり、蛇行したり、渦を作ったりと複雑な流れを形成しています。

右から流した場合

一方、流路に右から流体を流した場合の結果を示します。

流速と流線

流速[m/s]と流線

流速と流線

流速[m/s]と流線(拡大図)

この流れは、ずいぶん様子が異なります。流体は、ほとんどが中央のジグザグな直線部分を流れ、環状の流路には侵入していません。分岐部は流れの方向からすると逆向きに分岐しているため、流れはわざわざ逆向きに向きを変えることはないようです。全体的にスムーズに中央部分を流れていると言えます。

圧力損失の比較

それぞれのケースで圧力損失(入り口と出口の圧力差)を比較してみます。下図は静圧と流線のコンター図です。

圧力[Pa]と流線(左から流した場合)

圧力[Pa]と流線(右から流した場合)

左から流した場合は40Paを超える圧力差になっていますが、右から流した場合は22Pa程度と半分くらいの圧力差になっています。この計算は同じ流量を流した結果なので、圧力差が大きい方がより大きな流体抵抗を持っていることを示しています。つまり、左から流した方が、流体抵抗が大きく流れにくい流路であることがわかります。

ある一方向に流れにくいということは、逆止弁のような働きをするということになります。ただし、通常のバルブと異なり、完全に流量がゼロにはなりません。

おわりに

今回はテスラバルブの構造を流体解析を通して確かめてみました。テスラバルブは流体の流れる方向だけで流量を制御できるので、可動部品が無い簡単な構造のデバイスとして用途があると思われます。参考文献では、電気回路のような仕組みを作ることも可能であることを示唆しています。

このような流体シミュレーションは簡単にできるので、流れの構造を視覚的に捉え、設計などに役立てていただければと思います。

※流れの様子は、鎖の連結数や分岐部・合流部・環部の形状、物性、流量などによっても変わってきますので、このページの結果はあくまで一例です。

参考文献

[1] Nguyen, Quynh M.; Abouezzi, Joanna; Ristroph, Leif. Early turbulence and pulsatile flows enhance diodicity of Tesla’s macrofluidic valve. Nature communications. 2021, vol. 12, no. 1, p. 1-11.

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