今回は流体解析の境界条件についてお話します。
目次
境界条件
流体解析などのように、ある空間領域に対してシミュレーションを行う場合、その領域の端面には何らかの条件を与える必要があります。これが境界条件です。
ここでは流体解析で使われる境界条件について見ていきます。なお、境界条件の名称はだいたい一般的に分かりそうな名前にしていますが、解析ソフトによって微妙に違うかもしれません。
流入境界
領域に入ってくる流れを表すための条件が流入境界です。流れであれば、境界面で流速または流量を直接指定します。
流速は面に垂直な成分を指定したり、3次元の各成分を指定できるものなど、プログラムによって様々です。
流量も、体積流量や質量流量など単位の違う量を指定できる場合があります。特に、圧縮性流体の場合は、流速規定か質量流量規定かで結果が変わってくるので注意が必要です。
また、熱や乱流を一緒に解く場合は、温度や乱流量も指定する必要があります。
なお普通は、流入境界では流速と圧力を同時に指定することは出来ません。圧力は全体の流れ場により、成り行きで計算されるためです(厳密にいうと、圧縮性で超音速で流入する場合などは流入境界で圧力も規定することがあります)。
流出境界
流出境界は領域から流れが流出する場所に指定する条件です。これは主に物理量の勾配がゼロ(ノイマン境界)としてプログラムされることが多いです。
$$ \frac{\partial \phi_b}{\partial x} = 0 \tag{1}$$
流出境界が領域内部から十分離れた場所にあり、内部の影響を余り受けないような場合は、速度や温度などの勾配がゼロになるように計算することで、流出を模擬できます。
勾配がゼロということは、その面からは一様に流出していることが前提となるため、逆流があるような場所には流出境界を指定することは出来ません(このような場所には後述の圧力境界を使います)。
流出境界の不適切な例
なお、計算領域から強制的に流れを流出させる場合(例えば、排気用のファン)には、前述の流入境界に負の速度や流量を与えることで模擬できる場合があります。ただし、これは解析ソフトの仕様によるかと思います。当サイトのオンライン流体解析ツールCATCFDzeroでは、負の流速を流入境界に与えることで、排気をモデル化することができます。
負の流入境界
圧力境界
境界面に対して圧力を指定するとで、流出や流入など自由な出入りを計算することができます。圧力が事前にわかっている面や前述のように流出部で逆流があるような条件では圧力境界を使います。
ただし、圧力境界はどのように圧力を指定するかでタイプが分かれます。
静圧規定
まず、静圧を指定する場合です。これは流体方程式で圧力を解く際に直接的な境界値として働きます。
この場合、静圧は決まりますが、流速は指定されません。流速は内部の計算結果から成り行きで決まります。当然、収束すれば流入量と流出量が釣り合うような結果が得られます。
全圧規定
次に、全圧$p_t$を規定する場合です。
$$p_t = p_s + \frac{1}{2} \rho {\bf v} \cdot {\bf v} \tag{2}$$
ここで、$p_s$は静圧、$\rho$は密度、${\bf v}$は速度。
流速は連続の式から系全体の質量保存を満たすように計算されますが、全圧規定ではその流速に応じで静圧が決まります。
この条件は、例えば自然対流の外側の大気開放条件に適用するとメリットがあります。
このような場所で静圧を規定した場合、一旦境界で逆流が形成されるとその速度がどんどん大きくなっていき、境界から大きな流入があるおかしな流れ場が形成されることがあります。
静圧条件による異常な流入
全圧規定の場合、逆流により流速が大きくなるとその分静圧が小さくなり、逆流を抑制する方向に働きます。これにより自然な流出を得ることができます。
全圧条件による自然な流れ
領域の外側に大気開放の広い圧力境界を設定する場合は、全圧規定を試してみてください。ちなみにCATCFDzeroの圧力境界は全圧規定となっています。
逆流の流入条件
なお、逆流の場合には、流速以外の温度などは流入境界と同じように、流入時の条件を指定する必要があります。
対称境界
流体計算では計算コストを削減するために、空間の対称性を仮定して1/2対称のモデル(ハーフモデル)で計算することがあります。
この場合は、対称面に対称境界条件を設定します。対称境界は境界面を挟んで、物理量が鏡像対称になっているという条件です。
壁境界
物体などの構造物に流体が接している場合、その構造物の表面が壁境界となります。
滑りなし条件
通常は壁表面では、流体は流速ゼロとして扱われます。この条件を滑りなし(ノンスリップ、no-slip)条件といいます。速度は壁面でゼロに設定され、壁付近の流体は結果として速度境界層が形成されます。
乱流モデルを使っている場合は、壁関数により壁面に接するセルの乱流量が計算され流速が決まります。
また、壁面での流速はゼロではなく値を指定することも出来ます。ベルトコンベアのように実際に壁が動いている条件や、外部流れの計算で実際には物体が動いている場合に静止壁に相対速度を与えるような場合に相当します。
スリップ条件
滑りなしの条件では速度境界層ができるため、壁面せん断応力が働きます。このせん断応力が働かずゼロである条件がスリップ条件です。ここでは壁面で力が働かないように壁面の流速が計算されます。
この条件は、例えば外部流れなどで解析領域を大きくとったとき、領域の外側の面に対して使われます。実際ここは壁ではありませんが、計算領域を有限にするために、仮想的に壁境界として与えます。このような境界では境界の影響を小さくするために、せん断力が働かないスリップ条件を与えます。
熱の条件
熱の計算を合わせて行う場合、壁では温度や熱量を指定したり、外部温度と熱伝達率を指定したりします。詳しくは以下の記事を参照してください。
境界条件設定の注意点
どの境界条件を与えるか
明らかに流速や圧力が決まっていたり、壁があるような場合はさほど境界条件に悩むことはないと思います。しかし、物理量がわからなかったり、大空間をモデル化したい場合は、どのような境界を与えるかで結果が大きく変わってくることがあります。この場合は、境界を与えようとする場所で、流速や圧力、温度などの物理量がどうなっているか予想し、適切な条件を与える必要があります。
領域で保存が保たれるか
境界条件で流入境界しかなく、流出や圧力境界がない場合は、流入出の質量保存がとれず計算が破綻してしまいます。
流入境界のみで出口がない
また、熱の問題で熱量を指定する境界しか与えていない場合も、熱量の保存がとれないので計算できません。
領域に対して物理量の保存がきちんととれる条件になっているかを確認して与えてください。
境界条件が内部に影響を与えるか
大空間や大気開放部などの端面に与える場合は、その条件が内部の着目部位の結果に影響を及ぼさないか検討することも大切です。
外部境界との距離が近すぎる
外部流れで境界が物体に近いと境界条件の影響が物体周りの流れにおよび、抵抗係数などの結果に影響を与えてしまいます。解析領域全体を大きくとり、なるべく境界を物体から離すなどの注意が必要です。
まとめ
今回は、流体解析の境界条件についてお話しました。解析ソフトや各プログラムでは、ここにあげた以外にも様々な境界条件が用意されています。やみくもにそれらの条件を使うのではなく、物理的にどのような条件なのか知ったうえで使うようにすると、計算結果を評価するうえでも役にたつと思います。